top of page
  • yusuke-jimbo

諸葛亮 Three Kingdoms

更新日:2019年8月13日

三国の君主について一通り書いたところで、今回は遂に「Three Kingdoms」の諸葛亮(孔明)について書きたいと思います。




この作品で諸葛亮を演じるのは1976年生まれの陸毅(ルー・イー)という俳優です。子役としてデビューし、中国でも大人気の方だそうです。ちなみに諸葛亮を演じた際には韓国でも人気が出たとか。超美形ですし、諸葛亮役を任されるというだけでその人気と実力は充分伺い知れるというものです。ちなみに日本語吹き替え版の声優はあの堀内賢雄氏です。


諸葛亮に関しては孫権の記事と逆の現象が起きそうです。


すなわち歴史上の「諸葛亮」は好きだけれども「Three Kingdoms」での諸葛亮は微妙・・・


もちろん陸毅氏が悪いわけではなく他の俳優が凄すぎること、脚本や演出が自分のイメージする諸葛亮とかけ離れていたことが原因です。


やはり関羽、張飛との衝突や統治者としての苦悩、李厳を罷免したときに「穏やかな生活に戻れてうらやましい」と発言したりする描写はちょっと残念でした。それから登場してすぐの頃は自信に満ちた表情をしていましたが、次第に泣き顔や眉間にシワを寄せる顔ばかりになっていき、三国志演義※1や横山光輝の漫画三国志での心強い諸葛亮とは全然違ったものになっていました。常に周瑜や司馬懿といった名将たちの上を行き、天下一の軍師であるという描写は充分になされていたのに(陸遜に石兵八陣を破られたことになっており、その点では陸遜をはっきり上回っているという描写はされなかっと思います)・・・正史の諸葛亮を意識したとも思えないんですが。


※1 三国志演義・・・中国明の時代に書かれた、後漢・三国時代を舞台にした通俗歴史小説。正史(歴史書)三国志をもとにしつつも民間伝承や講談なども取り入れ「三国志」の普及に大きな役割を果たした。中国四大奇書の一つ。


暴言になってしまうかもしれませんが、髭をつけてあの冠と衣装と羽扇をつければ大体の俳優は諸葛亮に見えるんじゃないかって思ってしまいました。 劉備役の于和偉(ユー・ホーウェイ)が普段の姿から劉備に変身した感じと比べたら 、ちょっと諸葛亮になりきるというよりは作られた感じがしました。これは「Three Kingdoms」を見るずっと前に同じく中国ドラマ「水滸伝 All Men Are Brothers」を見た影響もあるかも知れません。

このドラマで梁山泊の軍師呉用を演じた李宗翰(リー・ゾンハン)がかなり軍師っぽい雰囲気を持っており、さらに普段の李宗翰氏が呉用を演じている時と全然違う外見をしていた時は「役者ってすごいな」と感心したのですが、無意識にそれと比べているのかも・・・。諸葛亮をモデルにした呉用がオリジナルを超えていましたね。ドラマは「水滸伝」のほうが先に制作されたんですが。ちなみに軍師としての力量は三国志演義の諸葛亮と水滸伝の呉用では月とスッポンです。


批判的なことばかり書いてしまいましたが、「Three Kingdoms」で諸葛亮がまだ誰にも仕えていなかったもう一人の天才軍師龐統をスカウトするシーンは大好きです。


諸葛亮「士元(龐統)、もう10年になる。そろそろ仕える主を見つけてはどうだ?」

龐統「10年がなんだ!この龐統の首に正しい値打ちがつくまでは、わしは30年でも自分を安売りしたりはせんぞ!」

諸葛亮「人生に30年が何度ある?わが主劉玄徳は・・・」


吹き替えでは「人の一生は短い」となっていましたが字幕では「人生に30年が何度ある」になっており、そんなに重要な言葉ではなくサラっと言っていましたがこのセリフには素直に感動しました。


それから物語の三国志がよく出来ているなあと思った点が「三顧の礼」以外にまだあります。


三国志前半から中盤にかけて官渡の戦い、樊城の戦い、夷陵の戦い、あるいは街亭の戦い等では敗れた側に明らかな失策があり、配下や周りの人間が正しい進言をしているのに君主や大将がその策を容れずに負けてしまう、という流れ(赤壁での曹操も普段の頭がキレている状態にはあまり見えない)でした。負けたほうの自滅に見える感じです。蜀の北伐も最初の頃は魏の司馬懿は皇帝の曹叡や上司の曹真に邪魔をされ全力で戦えなかった(諸葛亮も皇帝劉禅に邪魔をされたことがある)のが、司馬懿が大都督になって戦場での最高責任者になると蜀の丞相の諸葛亮と誰にも妨害されることなく全力でお互いの知恵を振り絞って戦う。曹操VS劉備の構図を受け継ぎ、三国志の世界でも最高の頭脳を持つ二人の名将が最後に真剣勝負をする(しかも諸葛亮は命をかけて)というのは物語の盛り上げ方としては凄いと思いました。「Three Kingdoms」は物語としてはここで終わっており、後は後日譚みたいになっております。三国志演義ではまだまだこの後も話が続きますが、小説の一番の山場はここかも知れません。実際の五丈原の戦いはほとんどにらみ合い、司馬懿も守るばかりで全然戦おうとしなかったのですが、この部分の脚色は凄い想像力だと思います。再び羅貫中恐るべし。こういったところにも三国志の人気の理由があるのでしょう。


そして、またもや正史(歴史上)の諸葛亮について考察します。


以前「100分de名著」という番組に日本の三国志研究の第一人者と言っても過言ではない渡邉義浩氏が出演しておられたのですが、番組内で渡邉氏が「三国志で一番好きな人物は諸葛孔明」と断言していたのが印象的でした。おそらく諸葛亮(孔明)は昔ならぶっちぎり、曹操の評価と人気が急上昇した今でも「好きな三国志の登場人物」ランキング不動の第1位なんでしょうが、専門家がマイナーな武将や意外な人物でもなく諸葛亮をテレビで「一番好き」と言ったのは興味深いことでした。


また以前某匿名掲示板で見かけたレスですが、


三国志初心者:諸葛亮すげー!

三国志中級者:諸葛亮全然大したことないやん

三国志上級者:諸葛亮すげー!


的な書き込みがありました。


これは三国志演義を代表とする各種小説で諸葛亮が神様のように書かれ、その天才的な描写やエピソードが数え切れないくらいあってそれを初めて読んだ人は「諸葛亮凄い!」となるのが、正史などを知っていくと演義で書かれた諸葛亮(及び蜀)の活躍の多くが創作であることを知って落胆することを表現しているのでしょう。一部では「三国志演義被害者の会」なんて言い方をされる周瑜、司馬懿、魏延、王朗、(龐統もその気あり)などの諸葛亮のために割を食った人物の本当の姿なども関係しています。実際僕も「諸葛亮ってそんなに凄くないんじゃ?」って思った時がありました。曹真にも勝てず、司馬懿にも小説では手玉にとっておきながら史実では全然勝てていないこと、自ら兵を率いて成果を挙げたことがほとんどないこと、手堅い戦略で奇策などを用いたり考えたりしていないことから「政治家としては大変優秀だが、軍師や指揮官としては1流ではない」との評価が一部では結構確定している気がします。

もっとひどいのは正史を書いた陳寿が諸葛亮を嫌いだったため、実際よりも悪い評価を歴史書に残したというもの。具体的に書けば陳寿の父が軍令違反で諸葛亮に髪を切る刑罰を受けたこと(小説では打首)が原因で諸葛亮を恨んでいたため「臨機応変の軍略はその長ずるところに非ざるか(臨機応変の軍略は得意ではなかったのだろうか)」と正史に書いたという説。専門家やマニアからはほぼ否定されるこの説、もちろん僕も信じていません。正史には陳寿の諸葛亮に対する尊敬の念、敬愛の念が溢れており、彼は諸葛亮の大ファンであったと思われます。

また小説からの反動か、諸葛亮が司馬懿に負けたという解釈も人によって様々です。確かに諸葛亮は司馬懿を打ち破ることは出来ませんでしたが、司馬懿に敗れて退却したわけでも大損害を出したわけでもありません(街亭の戦い除く)。充分互角に戦っています。諸葛亮は局地的には司馬懿に勝ったが、晋の実質的建国者である司馬懿を憚って直接的に書いていないという研究者もいます(実際に司馬懿には局地戦で勝利している記述も正史にあった気がします)。一度目の北伐では馬謖の命令違反(これは擁護できません)で撤退するまでに涼州を平定し長安に迫る勢いであったこと、その後の北伐の撤退時に王双や魏の名将張郃を討ち取りつつも自軍に大きな被害を出していないことなどから指揮官でも有能であったと主張する人もいます。司馬懿も相当な名将ですので、互角に戦うだけでもかなりの実力です。

また劉備に天下三分の計を進言し、実際に荊州と益州を領有させ漢中から曹操軍を駆逐して最終的に皇帝に即位させたことはとてつもない偉業でしょう。もちろん劉備本人の将としての実力や龐統、法正の策略面での貢献、張飛、黄忠、魏延の活躍に馬超の帰順などの要因があったにせよです。


以上の点から、三国志演義での活躍の多くが創作でも正史の諸葛孔明も大変優秀であったと思います。軍事面ではあまり成果を挙げられなかったことから将軍としては曹操、周瑜、司馬懿、陸遜あたりより下となるのは仕方ないですが、それでも当時では充分1流の範囲でしょう。政治面では「管仲、蕭何に匹敵する」と正史で評されたために、将軍としては白起や韓信、謀略面では張良や陳平並の実績、実力がないと小説の活躍に比べて物足りないといった感覚なのかもしれませんがいくらなんでもそれはハードルが高すぎます。同時代で言えば将軍としての張遼や関羽(これに関しては一方的に劣っているとは言い難い)、軍師としての郭嘉や賈詡 (さすがにここら辺には負けますね)に近い知能を持っていて、管仲や蕭何に並び称されるだけの内政力があったんですから本当に天才です。

そこで最初の


三国志上級者:諸葛亮すげー!


に戻るわけです。

まあ謀略に関しては蜀内でも龐統と法正の方が上だとは思いますが。

そして劉備との関係に名文として名高い「出師の表」、最後に蜀が辿る悲劇的な運命。

正史三国志が魏を正当として書かれていながらも、蜀人気が出るわけだなあと思いました。実際正史を読んでいるときも僕には蜀書が一番面白かったですから。


まだまだ細かく考察していきたいところもありますが、今回はこの辺で。

次回はおそらく「Three Kingdoms」関連では最後の記事になるかと思われます、司馬懿について書く予定です。



閲覧数:2,467回0件のコメント

最新記事

すべて表示

川端康成「みずうみ」について

2023年1月22日高志の国文学館での「朗読と音楽の集い」も近づいてきました。この日朗読される川端康成の小説「みずうみ」について少し書きたいと思います。 今更説明の必要はありませんが川端康成(1899-1972)は日本の小説家、文芸評論家。1968年にノーベル文学賞受賞。代表作に「雪国」「伊豆の踊り子」など。 以下斜め文字はWikipediaの小説「みずうみ」の項より引用 『みづうみ』は、川端康成

bottom of page