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孫権 Three Kingdoms

更新日:2019年8月2日

曹操、劉備と書いてきた中国ドラマ「Three Kingdoms」の登場人物ですが、今回は二人に並ぶ呉の初代皇帝孫権について書きたいと思います。




孫権を演じたのは1982年生まれ北京出身の張博(チャン・ボー)という俳優です。若くてイケメンですね。この張博は同じく中国ドラマ「孫子兵法大伝」で越王勾践を演じています。「孫子兵法大伝」は僕もドイツにいる時に全話見ましたが、全く気付きませんでした。戦国時代の呉を滅ぼした越王勾践と、三国時代の呉を建国した孫権両方を演じたというのはドラマチックですね。それから「Three Kingdoms」での日本語版吹き替え声優の咲野俊介氏は孫権を演じている時の張博にとても声質が似ていました。日本語版制作スタッフも吹き替え声優の人選に力を入れているのがわかりました。また魯粛も中国語の本人の声と日本語吹き替え声優の声が近く、オリジナルの再現度が高かったと思います。


このドラマの孫権は幼い時から聡明で、子役が演じる幼少時代があるのは孫権と献帝くらいでした。孫権及び呉は第3勢力として扱われることが多いですが(それを逆手にとってか呉を主人公にした三国志の小説もありました)、「Three Kingdoms」ではかなりの存在感を放っています。父の孫堅と兄の孫策の活躍期間が短かったこと、呉の歴代都督の周瑜、魯粛、呂蒙が短命だったこともあり、孫権は名実ともに呉の主人公でした。曹操や劉備といった英雄と渡り合えるだけの人物として描かれており、これは「Three Kingdoms」の大変優れた点です。曹丕含め三国の初代皇帝と実質的な建国者がみな有能で説得力がありました。ただ、その観点で言うならやはり呉の領土の大半を平定した兄孫策の活躍をもっと描いてほしかったと思います。


このドラマは一流役者ばかりを起用しているので張博の演技にはケチのつけようもなく前半は孫権がかなり好きになりましたが、呂蒙の死あたりからちょっと雲行きが怪しくなり・・・それまでは髭がなかったのに髭を生やしてからの夷陵の戦いでは昔の凄さに翳りが見え始めた感じがしました。陸遜を抜擢するのはやはり孫権ですが・・・そして夷陵の戦いが終わった後はほとんど出番なく物語からフェードアウト。これが史実の孫権(若い頃は名君だったが年をとってからは往年の冴えを完全に失った)を暗示しているのなら監督も脚本も脱帽ものなのですが、おそらく偶然でしょう。赤壁の戦いの頃は超有能に描かれるのが常で、樊城の戦いぐらいから孫権に怒りを覚え始めるのはよくあることだと思います。蒼天航路※1でも最後まで読むと孫権を嫌いになるのは三国志あるあるです(完全な独断と偏見)。そしてこの作品での孫権は歴代大都督を心の底から信用しきっているわけではありませんでした。


※1 蒼天航路 ・・・1994年から2005年まで「モーニング」に連載された 原作・原案 李學仁 、作画 王欣太 による三国志漫画。それまで蜀を中心に描かれる三国志作品が主流だった中、魏の曹操を主人公 に新しい解釈と豪快なタッチで描き累計発行部数1800万部を超えるヒット作となった。


ここで光栄のゲーム「三國志」シリーズの孫権および一族の能力について私見。

初期の孫権は万能の超優秀武将だったんですが、最近では軍事能力が低めに設定されてきているようです。孫権が自ら出陣すると必ず敗北するので一部では曹丕共々「出負け」と揶揄され、仕方ないのかも知れませんが「魅力」のステータスがない作品では並よりちょっと上の万能武将くらいの能力しかない気がします。逆に父の孫堅は一貫して優れた能力を維持しています。孫堅はわずか36歳で亡くなっているとはいえ、反乱軍討伐に功があって彼の果たした役割はとても大きいのですが、戦闘系や総合の能力値が長男の孫策以上の時もあるのが少し疑問です。長男と次男があまりにも優秀だったために父の評価も上がっているのか、大黒柱の父が死んでもそれに負けないくらい優秀な息子たちが控えているという構図なのか。いずれにしろゲームバランス的には面白くなるんですが。ただ優秀な世代が最初に偏っているので、後継者が尻すぼみになっていくのは呉の残念な部分です。

史実の孫権は曹操に「息子を持つなら孫権のような子がほしい」と言われたり、兄孫策に「兵を率いて天下を争うならお前は私に及ばないが、賢人を用いて江東を守ることにおいては私はお前に及ばない」と評されたりしているのに、能力値のせいか孫権が君主の状態よりも孫堅や孫策が君主のほうがプレイヤーでも敵でもテンション上がりますね(ゲームの世界の話)。


やはりここまで書いてきて孫権は評価が分かれる英雄なのかなと思いました。若い頃は間違いなく名君ですが、後継者問題に関しては間違いなく暗君。江東を平定したのは孫策。赤壁で曹操を破ったのは周瑜、荊州を奪ったのは呂蒙、夷陵で劉備を退けたのは陸遜。しかし自らは合肥で張遼に散々に打ち破られる。「Three Kingdoms」では合肥の戦いのシーンがなかったのでより有能に見えた部分もあると思います。皇帝になってからの功臣への態度などは明らかに曹操や劉備に器で劣る感じがする。また公孫淵との外交にその後の張昭とのやり取り。父の孫堅には「宣帝」と諡しておきながら兄の孫策には「長沙桓王」と帝より下の王の諡号を与え陳寿に「敬意が足りない」と書かれたり、そういったマイナス面から評価が低くなることもやむ無しでしょうか。「Three Kingdoms」では上手く描いていましたが、呉が地味になるのは曹操と劉備の因縁、もしくは司馬懿と諸葛亮のライバルストーリーのせいだけではない気がします。


最初この記事を書き始めるころは孫権の魅力や偉大さについて語ろうと思っていたのが、いつしか批判的なことばかりが目立つ記事になってしまいました。魏は正当な王朝、蜀は自分の生まれ故郷として陳寿が正史三国志で曹操と劉備を贔屓したわけでは決してなく、公平に見ても二人に比べれば孫権は欠点や失策が多かったですね。19歳で孫策の後を継いで50年以上国のトップにいたので、感覚が麻痺したんでしょうか。生まれも育ちも良かったですし。ただドラマ内の孫権は本当にかっこよかったです。


次回は・・・そうですね。諸葛亮について書きましょうか。ただ現時点ではこのブログの三国志関連の記事、ほぼ全部自分しか閲覧していません。




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